Craft Onsen Project

VOL3
石を食べる男

才能とは、情熱を持続させる能力のこと

宮崎駿

創業当初、三田は変人扱いを受けたと笑う。
サラリーマンを退職し、西麻布の自宅のガレージを改装して温泉施設を始めたこと。工房で日々実験をする中で温泉特有の匂いや蒸気で、火事や災害と間違われて消防や警察が何度も来たこと。生活するお金にも困り工房の床で寝泊まりして食事を得る代わりにクラフト温泉を売り回ったこと。

「確かに外から見たらアブナイ奴だよね」

文字通り寝食を忘れてクラフト温泉の開発に没頭した。家もお金も食べるものにもリアルに困ったけど、そのときは不思議と辛いとは思わなかった。湯治の温泉を世界中の人に使ってもらう。その映像を想像するだけで興奮した。
良い温泉は良い土壌に宿る。良い土壌には良い温泉が眠っている。三田は一人で全国の温泉地を巡った。温泉地へ行くと三田は源泉ではなく山や岩肌に向かい、そこにある石や土を口にした。日本中の土を見ては食べ、触れては舐めているとそこに含まれる成分が手に取るようにわかってきた。ミネラルが乏しいとパサっとしているけど豊富に含まれている石はヘビーだけど苦味の中に独特のコクがある。粘土質で酸味があると胸が高ぶる。そう、良い温泉は良い土壌に宿っているのだ。

「うん、やっぱりアブナイ奴だよね笑」


地球の生物は大地に眠るミネラルを媒介して誕生した。つまりミネラルは生命の源そのものだ。人間には約70種のミネラルが体内に存在し、それらが複数で作用して細胞は日々動いている。生命活動はその連続で、化学反応を繰り返すことで生命をつないでいるとも言えるが、ミネラルはその触媒として不可欠だ。その大半を含んでいるのが日本の温泉なので、温泉は世界一のマルチミネラルサプリメントなのだ。石や土を舐めると言うのはサプリメントを摂っているのと同じ、と信じている(真似はしないでほしいけど)。

日本の温泉資源は世界を変える力がある、それは石油の世界でも夢中でやってきた自分だから確信を持って言えることだ。温泉の資源価値は用途もエビデンスも豊富で石油よりずっと高いはずだ。さらにクラフト温泉は資源化に必要な”移動”と”保管”という価値を温泉に与えた。これによって温泉は1300年という年月を経て初めて源泉地を超え、国を超えていくが可能になった。

宮崎駿監督かつて、「才能とは、情熱を持続させる能力」と言っていた。もしそれが真実だとすれば、少なくとも三田は温泉に関しては才能の塊かもしれない。家族ができるまでは命より大切な存在だった(クラフト温泉を守るために正月に死にかけた)。痛いのは嫌だけど今でも死ぬことは大したこととは思ってない。そんな存在に出会えたことに感謝して、三田は文字通り今日も石にかじりつく。

終章 -クラフト温泉のその先-

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